SGC 現代アートコレクション Vol.6 丹羽優太 画家

第六弾は、和紙、墨、顔料、膠といった伝統的な日本画材を用い、その絵画技法に倣いながら、京都を拠点に活動する画家の丹羽優太。鯰や大山椒魚などをモチーフに、災害、疫病、戦争といったテーマを扱いながら作品を制作する丹羽は、2012年から、東福寺塔頭の光明院に納める襖絵を描くため、住み込みながら制作活動を続けています。

純粋な日本美術マニアでもある丹羽は、金を素材として扱える今回の機会に、川端龍子が金泥で描いた「草炎」を思い浮かべます。そして、以前に金箔地に墨で描いた八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を2024年の干支である辰と見立て、その六曲一隻の金屏風の対となる作品を、墨地に金泥を用いて描き始めました。日本画材として古くからあるものの、使用できる機会が限定的である金泥をふんだんに使用できた今回は、丹羽自身にとっても新たな表現に挑戦する契機となりました。

日本画材の確かな知識と技術を持つ丹羽が制作した作品が、重森三玲の波心庭を背景に、SGCのコレクションや資源と組み合わされ、SGCアートコレクションの第六弾として独自の黄金の世界が展開しました。

八紘一宴図屏風

2021年に発生した熱海市伊豆山土石流災害の後に、ホテルニューアカオで開催された「ACAO OPEN RESIDENCE #5」では、そのホテルの宴会場に八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を描いた六曲一隻の金屏風「大蛇宴会図屏風」を発表した。

屏風の中では八岐大蛇が酒を飲み熱海の海や山の幸を食べ、温泉に浸かっている。日本最古の災害をもとに描かれた物語に登場する八岐大蛇を、もう一度宴会でもてなすことで、この土砂災害の被害がこれ以上広がらず、早く傷が癒えることを願い制作した。

今回、来年の干支である辰にちなんだ作品を制作する機会を活かし、この龍のような八岐大蛇をシリーズとして展開することとした。金箔地に墨で描いた「大蛇宴会図屏風」とは対照的に、この屏風の対となる作品の制作を墨地に金泥を用いて取り組んだ。

モチーフは八岐大蛇を倒したとされる素戔嗚尊(スサノオノミコト)。戦車に乗った素戔嗚尊を中心にお面を着け表情の分からない者達が、ぞろぞろと行進していく。彼らは伝承の通り、八岐大蛇を退治しに向かっているのか。それとも、酒や食材を手に抱えている様子を見ると、ただ宴会をしたいだけなのか。

作品は六曲一双となり、タイトルは「八紘一宴図屏風」とした。一双揃ったことでこの時代の空気感を象徴するような作品を残せたような気がする。
(丹羽優太)

Love Your Enemy

金泥、金砂子、墨を用いて描いた作品。描かれているのは八岐大蛇(ヤマタノオロチ)と素戔嗚尊(スサノオノミコト)。一見戦っているようにも見えるが、よく見ると彼らは絡み合いながら酒を呑み交わしている。素戔嗚尊が持っている瓶には、ある有名な歌手が言ったとされる言葉が書かれている。

「Alcohol may be man’s worst enemy, but the bible says love your enemy.」
(丹羽優太)

今朝有酒今朝酔図

この作品は「Love Your Enemy」同様、「八紘一宴図屏風」で八岐大蛇と素戔嗚尊が出会ったのちに酒を飲み交わしている様子を描いている。中心には禅語で「今朝有酒今朝醉、明日愁來明日愁」と書かれており、今という時間を大切に生きようといった内容となっている。この讃は光明院の藤田慶水住職に特別に書いていただいた。
(丹羽優太)

ACK特別プログラム
「Golden Fight of Gods 黄金衆神之闘」

SGCアートコレクションは、京都を舞台に開催される日本最大級の現代アートフェア「Art Collaboration Kyoto(ACK)」に初回から参画し、アーティストと共に制作した作品を展示しています。初回は、染谷聡の作品を茶室にて、2回目は、三沢厚彦と谷原菜摘子の新作に、金氏徹平、SIDE COREのアーカイブコレクションを組み合わせたブース展示を行いました。

3回目となる今回は、メイン会場である国立京都国際会館を飛び出し、東福寺塔頭の光明院にて特別プログラムとして開催しました。

展示タイトルは、「Golden Fight of Godsー黄金衆神之闘」。重森三玲の波心庭を見渡すことのできる観庭楼の2階を会場に、金箔地に墨の屏風と、墨地に金泥の屏風で構成される六曲一双の作品「八紘一宴図屏風」が、展示空間を大きく挟み込むように置かれ、そしてまるで描かれた絵から飛び出してきたかのように、金を身に纏ったランプ、墨で殴り書きされた金箔のオブジェなど金製品が散乱する黄金のインスタレーションが展開されました。

コラボレーションをキーワードに京都の街にアートを展開するACKの姿勢に呼応するように開催された本展は、金×アートの可能性を更に広げる機会となりました。

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丹羽優太

丹羽優太YUTA NIWA

画家

日本絵画の文脈、伝統的な素材、各地に残る伝承を用いながら、人々には見えない厄災、抵抗できない力が常に黒い何かに見立てられてきた歴史に着目し作品制作を行う。主な展示に、ATAMI ART GRANT「丹羽優太×KEITA MARUYAMA-錦ヶ浦 かぶき者らが夢の跡-」(2022)、個展「なまずのこうみょう」(2021)、やんばるアートフェスティバル山原知新「勸酒精-酒精を勧める-」(2021)などがある。2021年から京都を中心に制作活動を行なっており、2021年から下寺孝典とのユニット「親指姫」としても活動している。