SGC 現代アートコレクション Vol.1 金氏徹平 現代美術家

SGCアートコレクション第三弾は、金との相性も良い漆を糸口に、人間が生み出す表現や創作の営みを様々な角度から読み解き、自身の作品にも繋げながら制作を続ける美術家の染谷聡。インドネシアなど海外での生活も長かった染谷は、大学時代から拠点を京都に構え、漆の表現が持つ可能性と向き合ってきました。

京都市立芸術大学で博士号を取得した染谷の漆の創作への眼差しはユニークで、ユーモアにも溢れています。漆芸の装飾性や素材性を起点にしつつも、工芸、そして美術をも視野に入れながら、制作された環境や地域性にも目を向け、そこからは人間と制作物との生態系が垣間見えます。

今回、SGCが所有するコレクションや金と出会った染谷は、今まで制作してきた作品や2021年の干支である丑をモチーフとし、工芸のコレクションや職人とのコラボレーションを作品に取り入れながら、新しいシリーズに取り組みました。漆と金とを独自の手法で組み合わせながら制作した作品が、SGCアートコレクションの第三弾となります。

金のパノラマ

僕は、伝統的な漆の「加飾(蒔絵や螺鈿をはじめとする装飾全般)」を、「行為」や「読み物」という視点から広義に捉えて作品として展開してきました。
漆芸の加飾のなかでも金はよく用いられるので身近な素材のひとつではありましたが、この機会にあらためて向き合うこととなりました。

漆も金も古来より素材自体に価値を見出され、貨幣や調度品など富の象徴として扱われてきました。また、仏像や仏具に多く見られるように、漆や金は単純な貨幣価値だけでなく、昔から願いや信仰の依代として人々に寄り添ってきたものだと思います。例えば、象徴的な独特な光沢や、時間に対する不変性、錬金術のように液体から個体へと変容する呪術的な性質など。希少であるなどの物理的な価値をこえた素材ではないでしょうか。

SGC 現代アートコレクション Vol.1 金氏徹平 現代美術家
おにぎゅり

僕は金と聞くと思い浮かべる光景があります。
新潟で数年前に見た、たわわに実る稲穂が一面に広がる風景です。風でざわめく稲穂がキラキラと光り輝く広大な景色はどこか神々しく、かつて日本がその稲穂の景色によって「黄金の国ジパング」と呼ばれていた話を信じさせました。
金という素材やその色彩には、日本の原風景さえも内包されているように思うのです。

2020年は、人類にとって新型コロナウイルスによる忘れがたい年となりました。
作品《おにぎゅり》は、手の平から生まれる親しみやすい形の「おにぎり」に、先に述べたような精神的なよりどころとしての金と漆の在りようや、五穀豊穣の願いをつめて作った干支の縁起物です。
2020年から2021年という時をしるす僕なりのシンボルとして。賑々しく、愉快に。

(染谷 聡)

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染谷 聡

染谷 聡SATOSHI SOMEYA

美術家/漆芸

1983年東京都生まれ、幼少期の6年間をインドネシアで暮らす。2014年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了 博士号(美術)取得。
品物がもつ物語に関心があり、漆のシンボリズムに着目。主に漆芸の「加飾」にみられる技法や意匠を〈装飾行為〉や〈読み物〉としての視点から広義にとらえた作品制作や調査を行なう。最近の展示に、「根の力」(大阪日本民藝館/2021年)、「札幌国際芸術祭2020特別編」(北海道立近代美術館予定/2020年)、「DISPLAY」(MITSUKOSHI CONTEMPORARY GALLERY/2020年)、「もようづくし」(和歌山県立近代美術館/2020年)など。2015年京都市芸術新人賞受賞。