SGC 現代アートコレクション Vol.1 金氏徹平 現代美術家

第一弾は、日本で、そして世界で活躍する現代美術家の金氏徹平。美術における彫刻のあり方を、コラージュの手法を用いて模索し続けながら、京都市立芸術大学でも彫刻科の教鞭をとる金氏は、日常のあらゆる場面で、創作のための素材を探し出し、それらを巧みに組み合わせながら様々な作品を作り上げます。時には美術の枠組みを越え、音楽や演劇、そして建築などの領域にも踏み込み、不確定な要素も積極的に取り込みながら、今の時代に存在し得る彫刻に挑み続けています。
その中で今回金氏が出会った素材は金。SGCの貴重なコレクションや資源を金と組み合わせながら、計3シリーズの作品を作り上げました。普段は資産的価値からは縁遠い、身の回りの日用品を素材として扱う金氏が、既に価値をもつ金という素材にどう挑み、どのような作品を制作したか。金とアートの絶妙な緊張感から生まれる、新しいSGCアートコレクションの幕開けです。

Mellow Gold #1 #2 #3 #4

2017年12月、京都・下鴨神社から南に続く原生林に囲まれて建つ国の重要文化財、旧三井家下鴨別邸にて開催された展覧会「光の現代美」。日本と中国から計11名のアーティストが参加したこの展覧会にて、今回のプロジェクトのために金氏が制作した2シリーズ計5作品が初お披露目となりました。
SGCのコレクションから金氏自ら選んだブロンズ像や石彫を、自身の身の回りにある日用品や作品のための素材と組み合わせ、金を用いることでその間の境界線や物質性を曖昧にしながら、異なる文脈を独特な手法で接続したこれらの作品は、日頃から金氏が制作するシリーズの延長線上にあります。

Mellow Gold #1
Mellow Gold #2
Mellow Gold #3
Mellow Gold #4

Mellow Gold(メロー・ゴールド)シリーズは計4作品。物質感のある元来の西洋の造形が、金氏によって持ち込まれた日用品や金の干渉によってメロー(柔らかく熟)し、関係のない物質や素材が繋がりあうことで新たに立ち上がった造形です。そして作品の設置された日本庭園や茶室には、木々や障子から柔らかな自然光が差し込み、この造形が不思議な輪郭線を描きながら光り輝く彫刻作品として注目を集めました。

Splash and Flake (Gold)

Splash and Flake (Gold)

Splash and Flake (Gold)(スプラッシュ・アンド・フレーク・ゴールド)は、異なる物質でありながら視覚的には同じように見える素材を集め、それらを組み合わせながら彫刻を作り上げるシリーズのゴールドバージョン。2005年からこのシリーズの制作を続ける金氏は今回、SGCのコレクションから発見した石彫の破片に、自身のスタジオに転がる石彫の素材を持ち込み、それら全てを金箔で覆うことで、素材や破片、金や石の価値を置き換え、またその物質感を曖昧にした金氏らしい彫刻作品となりました。

Teenage Fan Club (Gold and Silver)

金氏が2005年から制作を続けているTeenage Fan Clubシリーズ。今まででほぼ100近い作品が作られ、金氏の代表作の一つとも言えるこのシリーズですが、今回は石川工房五代目、金工作家の石川広明とのコラボレーションによって、そのゴールドバージョンが制作されました。本シリーズでの職人とのコラボレーションは2回目となりますが、フィギアやその髪の毛のプラスチック素材が、金や銀に置き換えられることによって、従来の作品の対極とも言える、金銀の持つどっしりとした質感を持った、小ぶりながらも重厚感のある作品が完成しました。2015年、イタリアのヴェネチア・ムラーノで行ったガラス職人とのコラボレーションでは、現地の職人の独自の解釈によって元の作品が大きく変容し、奇妙な造形となりながらも、ヴェネチアンガラスという独特の質感を持つ作品が現れたことに金氏自身が驚きましたが、今回も同様に、金工芸の職人の技に造作を委ねながら作品が制作されました。

Teenage Fan Club #38, 2011

フィギュア, 37 x 26 x 8 cm
courtesy Eslite Gallery

Teenage Fan Club (Gold and Silver) #1

美術や彫刻、そして工芸という概念は、明治以降に日本に導入された西洋美術の文脈に基づき、芸術の大きな枠組みから切り分けられ、定義された分類ですが、今回、現代美術家と金工芸作家とのコラボレーションを通じて制作されたこの美術工芸は、そのような概念を超越した、前例のない彫刻作品となりました。
金氏のTeenage Fan Clubシリーズの中から、石川が独自の視点で作品の要素を抽出しながら、胴体部分は銀、髪の毛の部分は金で、丹念込めて精巧に造形が整えられました。

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金氏徹平

金氏徹平
TEPPEI KANEUJI

現代美術家 
京都市立芸術大学彫刻科専任講師

1978年京都府生まれ、京都市在住。2001年京都市立芸術大学在籍中、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(ロンドン)に交換留学。2003年京都市立芸術大学大学院彫刻専攻修了。現在、同大学彫刻専攻講師。日常の事物を収集し、コラージュ的手法を用いて作品を制作。彫刻、絵画、映像、写真など表現形態は多岐にわたり、一貫して物質とイメージの関係を顕在化する造形システムの考案を探求している。国内外での展覧会のほか、舞台美術やその演出、書籍の装丁なども多数手がける。

石川広明

石川広明
HIROAKI ISHIKAWA

金工作家 
石川工房五代目

昭和55年、石川工房三代目・石川光一の次男として浅草に生まれる。平成11年、伯父のもとで金工の技法を習得。初めての作品が金銀創作展で台東区長賞を受賞する。平成13年からは重要無形文化財の奥山峰石に師事し、金工の技を磨いた。若くして才能を開花させ、石川工房の五代目として代表の座を引き継ぐ。鋭い観察眼から生み出される新たな発想を、確かな技術で表現した斬新な金工作品は、多くのファンを持つ。